イギリスの失敗 「合意なき離脱」のリスク (PHP新書)

本書の構成・内容は、「商品の説明」に詳しいので本稿では深く立ち入らない。ただ１つ右紹介文に関して言えば、「『EU…から…10月末までに、必ず離脱を実現する』…ボリス・ジョンソン首相は…『合意なき離脱』をなぜ進めるのか。議会制民主主義…英国が陥った極度の政治的な混迷…ポピュリストが民意を支配…老大国の『失敗』から、令和の日本が知っておくべき『教訓』」につき、著者において「在英3年半の経験を活かし激動の国際政治の真実を読み解く」とあるが、些か筆が滑った観がある。概略的に（些か粗雑を承知の上で）言えば、まず著者が本書で依拠する報道引用等が主として“リベラル”（左派系）で有名な（労働党側の）「ガーディアン」紙であること（保守中道の「タイムズ」紙等はほぼ登場しない）、次が『教訓』については、私には曖昧で第７章後半での「２１世紀の新日英同盟」（２０８頁～）及び「情報小国ニッポンの悲劇」と称する節においての、イギリスとの軍事・経済的連携でお茶を濁している観が強いことである。そもそも第７章全体（極論すれば本書全体）がイギリスのＥＵ離脱に対して曖昧？とも感じられるのは、タイトルから私が受ける印象との乖離にも関係するが、私自身は“大英帝国本位”流が、現代（欧州）においてどれ程通用するのか？と否定的に観ている。他方日本の置かれている現状、四方を海に囲まれた（対中・露・北に加え韓国も視野とすべき）軍事的プレゼンスについて、地理的に日本の裏側の“大英帝国”を期待したところで、外交的・遠交近攻的・弥縫的・間接的な支援は別論として、直接的・即効的・実効的支援の困難なことは“旧日英同盟”の歴史の示すところだろう。これは、著者自身も認めていることである（１８２～１８４頁など）。ただイギリスとの外交的関係性の重要性は、著者の指摘の通りであって、特に中・露・北との対抗的側面を中軸とすべきことは戦略上重要だろう。他方トランプ大統領の※※版とも揶揄されるボリス・ジョンソンの（政治的・外交的）力量が未だ未知数であり（と言うよりある程度限界も見えなくもない）、期限の１０月末以降の欧州動向次第としか言えないのではないかと考える。そもそも著者はＥＵ離脱について、国民投票に付したキャメロン（及びその後継のメイ）について手厳しい批判を繰り広げているが（第３章など）、これを煽っておいて梯子を外した（と言うより逃げた？）ナイジェル・ファラージへの政治的・道義的責任に対する批判的筆致は甚だ消極的な印象を受ける（第１章など）。とは言ってもＥＵ離脱を望んだのは他ならぬ英国国民なのであって、ボリス・ジョンソンでも、キャメロンでも、メイらにその直接的責任はなく、一重に英国国民の政治志向（国民投票など）の誤謬にあると言うべきだろう。本書を読むとその是非を問わず、現代の迷えるイギリスは２１世紀になってもまだ旧“大英帝国”のままであるとつくづく感じられる。それは今回のＥＵ離脱騒動において、極論ではあるけれども“一方の足だけ突っ込んでおいた桶（ＥＵ）からその足を抜く”のに“乾いたタオルを用意しろ！”とか、“今までの靴下が良い！”等、些か独善的であるとしか言いようがない。即ち（私の理解の限りでは）人の移動（移民）は制限するが、経済的関係性（貿易上の関税関連）は従来通り認めろ！等と、ＥＵに対し上から目線の要求に等しいと私は感じてしまう（≒大英帝国主義）。これでは日本のどこかの隣国の独善と同じであって、またいくら批判の多いドイツ（フランス）とてかかる独善的対応の（合意なき離脱まで示唆する）イギリスに態度が硬化するのは当然であろう。まるで１８～１９世紀以降の大英帝国中心主義（植民地政策など）への回帰、或いはＷＷⅠ以降の大英帝国（三枚舌外交ほか）そのままの外交スタイルを想起させる（→アフリカ・中東等の国境線の特徴とその後の混乱に注目）。尤も今でも、英領バージン諸島、ケイマン諸島、ジブラルタル領での“大英帝国的（重商主義）政策”を観れば、その立ち位置も知れようか。ボリス・ジョンソンのお手並み拝見である。